多良間島地域の歴史ある文化に触れる
多良間の八月踊り

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国指定重要無形文化財にも指定されている、歴史ある祭祀「八月踊り」を、目で観て肌で感じたくて、いざ宮古諸島の多良間島へ! 多良間島は、宮古島の西約67㎞、石垣島の北東約35Kmに位置する隆起サンゴ礁の島だ。そしてこの多良間島で連綿と受け継がれてきた祭祀「八月踊り」は、島の方々総出で盛大に行われ、島の暮らしが香る民俗踊りに、古典舞踊、そして組踊(くみおどり)と、心を奪われる美しい芸能の数々が奉納される。伝統文化、祭祀が好きな人にはぜひ一度は見てほしい圧巻の「八月踊り」。多良間の旅は、海への入り口であるトゥブリ散策からスタート。

トゥブリの先には、とっておきの海がある!

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蓮の葉のようにまるく平たい多良間島(たらまじま)の海岸線には、島の方々がトゥブリと呼ぶ、海へと続く小道が、分かっているだけで46ヶ所ある。かつて多良間島の人々は、忙しい畑仕事の合間に、食事や休憩で家へ戻る手間を省くために、このトゥブリから近くの海辺に出て、汗を流し、魚や貝を採り、海の恵みをいただいていたという。つまりトゥブリは島人たちにとって、ひとときのやすらぎへの小道。その証拠に、それぞれのトゥブリには島の言葉で名前がつけられていて、同じ名前はひとつもない。トゥブリは、大切な海への出入口なのだ。

多良間島へはフェリーで約2時間、宮古空港から琉球エアコミューターに乗れば約25分。

多良間空港に到着後、レンタカーを早速走らせてまずはトゥブリ探しに! 防風林の緑の茂みに延びるとある小道、すなわちトゥブリを抜けると、そこには、多良間島を囲む穏やかな海が広がった。思いっきり、深呼吸! ああ、いい旅が始まる予感!!

あこがれの多良間島 「八月踊り」を訪ねる

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多良間島の住民総出で行なわれるという「八月踊り」の初日。楽しみにしていた、国の重要無形文化財にも指定されているこの祭祀を訪ねた。これまでにも、沖縄のほかの島々の伝統行事をいくつか訪ねたことがあるのだが、そこで出会う各地の祭りを観てきたという方々から、「多良間島の『八月踊り』の奉納芸能はスゴイ!」と幾度も聞いてきたから、期待は高まるばかり。芸能の奉納は3日間、朝から夜まで連日続くという。さらに島の方々による芸能には、土が香る民俗踊りに古典舞踊、さらに中国からの使節をもてなすために首里城で始まったという沖縄の伝統的な歌舞劇「組踊」も盛り込まれている。組踊の上演時間はひとつ約2時間!しかも異なる演目の組踊を、日に2本ずつ奉納するという。けれど、練習期間はわずか10日ほどとも! いったいどうして、膨大な台詞と数多くの踊りを、この短期間に準備できるのだろう? 島へ渡るプロペラ機のなかで隣り合わせた60代の方に聞くと、「小さい頃から先輩たちを観ていたからかな。自分が舞台にでていた頃は、何日も前から緊張して大変だったよ。」と言って、それから、「ゆっくりしていきないさいね」と微笑んでくれた。

祭りの会場ではこどもたちも 元気に走り回る!

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集落に着くと、緑の木立に包まれている方角から、鳴り物の音が聴こえてくる。会場にはたくさんの露店も並び、いよいよ祭りが始まるという、色めきだった雰囲気に包まれていた。朝の陽射しに照らされた小道を、子どもらが駆けていった。つられるように、一日目の奉納芸能がおこなわれる土原御願(ンタバルウガム゜)へ急いで向かった。ちなみに多良間村では、独特の発音をする方言を現在でも使っていて、島の言葉を表記する際には、ム゜、イ゜、リ゜などの特殊音表記を用いており、多良間島内の看板やガイドブックなどで、様々な表記を見つけることが出来る。

~ 奉納芸能一日目 ~ 土原御願(ンタバルウガム゜)

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土原ウガン(ンタバルウガム゜)は夏日なのに、風が流れ、とても涼しかった。辺りにはフクギ、デイゴなどの古木が生い茂っている。ここ土原ウガンは、多良間島を統一したこの島の英雄、土原豊見親(ンタバルトゥユメ)ゆかりの神聖なる聖地であり拝所なのだそう。そもそも「八月踊り」は、「パチュガツウガン」と呼ばれ、多良間島の方々には今もこう呼ばれている。パチュガツが八月、ウガンは御願の意。つまり「八月踊り」の根源にあるのは、祈り、なのだ。

さらに、古老の伝承によれば、「八月踊り」は「皆納祝い」、と呼ばれていたという。その昔、まだ首里城に王がいた頃、多良間島の人々には人頭税という厳しい税が課せられていたという。農民たちは懸命に働き、旧暦七月までに布や穀物などを納めた。そして翌八月には神前に、この完納の報告とお礼を行い、来年の五穀豊穣を祈願。このときに、心の奥底からあふれる喜びから生まれた踊りを奉納したことが、いまの「八月踊り」に繋がるといわれている。

舞台裏は大忙し! 祭りを支える八つの座の存在を知る。

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舞台裏には、出番を直前に控え化粧に勤しむ方や、じっと台本を読み込む青年の姿。その一画にはずらりと衣装が並び、その手前に、極彩色の紙製髪飾りなどが置かれた場所があった。見上げると、垂れ下がった茶の糸に色紙が散りばめられた髪挿しがぶらさげられていた。ここは、スタフ座と呼ばれる衣装などを整える方々の区画だそう。スタフ座の責任者・嘉味田彰(かみだあきら)さんによると、「糸は馬の尾の毛」とのこと。髪に挿し、娘さんたちの顔まわりを繊細に飾る、あの独特な揺らめきと輝きは、馬の毛でなければ出せないのだそう。ちなみに嘉味田さんは29年間、スタフ座の一員で、つまりは衣装のエキスパート。

じつは多良間島の「八月踊り」には八つ、この座なるものがある。そして八つの座がそれぞれに経理、衣装、音楽、狂言などを分担し、準備を進める。この完璧なる組織力も、「八月踊り」の凄さの一端だったのだ!

福禄寿の登場で、 豊かな心地に包まれる!

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法螺貝の音が響いた。慌てて舞台正面へまわりこむと、その日、舞台を勤める方々全員の顔見世行列、「総引き(シュービィキィ゜)」がスタート。舞台が始まれば幕の後ろに隠れて姿を見せない唄三線を担当する人たちも、このときばかりは表に登場し、客席からあたたかな拍手をもらっていた。「総引き」の後には、婦人方による島の暮らしと豊年の喜びが匂い立つ「キネツキおどり」、長い棒を手にした若者たちが甲高い声を発しつつ躍動し、お互いの棒を激しく合せる「棒踊り」などが、次々に舞われる。カツンカツンと棒がぶつかりあえば客席から拍手が起こり、隣りにいたおばさんが、「気持ちいいさー!」と、ひと言。と思いきや、空気は一転。豊かな黒鬚をたくわえた、着物姿の「福禄寿(フクルクジュ)」が登場! 扇を手に、両腕をぱっと広げた姿は、まさに威風堂々。着物の袖の端を晴れ着のこどもたちが握りしめ、連なって練り歩くその雰囲気は、そこに居合せた皆を穏やかで豊かな心地に包みこんだ。

~奉納芸能二日目~ ピトゥマタ御願(ピトゥマタウガム゜)

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2日目は、昨日の仲筋集落ではなく、塩川集落へ。
「八月踊り」には、それぞれの日に呼称があり、1日目を仲筋集落で行う「仲筋の正日」、2日目を塩川集落で行う「塩川の正日」、3日目の両地区が共に芸能を奉納する日を別れ、と呼び、ふたつの地区でそれぞれ盛大に行なう。というわけで、舞台近くの席に相手集落の方々を招いて、自分たちの地区で受け継ぐ芸能をお互いに誇り合うという。「昔はね、いまよりもっと互いに張り合っていたよ!」と、後ろから舞台を見守っていた恰幅の良い男性が、いたずらっぽい笑みを浮かべ、教えてくれた。塩川の方々が芸能を奉納する、ここ「ピトゥマタ御願」も聖域。多良間島の英雄、土原豊見親の妻の屋敷跡などと伝えられ、地域の方々に大切に守られてきた拝所なのだ。設けられた舞台の脇には、すっと空に向かって伸びるフクギの巨木。裏で忙しく準備をする島の方々の頭上には、ガジュマルがやさしく木陰を落としていた。

発見がいっぱい。二日間観て、大正解!

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それにしても、仲筋と塩川、両方の奉納芸能を観られて、本当によかった!例えば昨日の仲筋と、今日の塩川では、朝一番に、舞台を清めるべく登場する獅子の顔が異なることも、2日間観なければ気付かなかったと思う。「総引き」の後に舞われる素朴な踊りも、素朴という点においては同じでも、内容は個性的。塩川では、ここでしか会えぬ「白髪の老人」が登場! しかもこのご老人、客席の人々と次々に握手を交わすものだから、会場は、とにかく楽しい雰囲気に。見学が2日目ともなれば、足の動かし方まで見る余裕も生まれる。それというのも、演者は足袋に包まれた踵を、床に垂直になるほどくいっと持ち上げ、それから爪先を、バレエのように内側へきゅっと折り込みつつ、舞い動くのだ。静寂のなかに微かなリズムが生まれ、緊張が和らぐようだった。舞台でのこの足の動かし方も、多良間独自のもの、なのだ!是非、島に宿泊して両方の集落の奉納芸能を堪能して欲しい!島の宿泊施設は少なめなので、早めの予約がおススメ。

旅人をも、ふくふくしい気持ちにしてくれる「八月踊り」

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そうしてこの芸能の厚みに驚かされる一方で、旅の終わりのいま心に浮かぶのは、丁寧に踊りの解説をしてくれた客席で隣り合わせた女性や、青年時代の舞台の思い出を活き活きと語ってくれた方たちのこと。何百年も受け継がれてきた「八月踊り」の大切な日に、旅人をも迎え入れ、共に楽しみ、福のお裾分けをもいただいた心地にしてくれる、多良間島の懐の深さを感じずにはいられなかった。

Information 基本情報

八月踊り

住所 沖縄県宮古郡多良間村
TEL 0980-79-2011(多良間村役場)
備考 期間 毎年旧暦の8月8~10日
URL http://www.vill.tarama.okinawa.jp/?cat=58

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