忙しい毎日を離れての気ままな一人旅。誰にも遠慮せず、贅沢に時間を使って癒されたい。噂に聞いた、手付かずの自然が多く残る石垣島北部の久宇良(くうら)集落で伝統的な木造漁船サバニを造る船大工さんを訪ね、夕日の中に広がるサンゴの海へ漕ぎ出すツアーを体験しに出かけた。
空港から車で久宇良集落近くへ。誰もいないビーチでサバニに出会う
美しい自然、そして壮大で静かな海に癒されたい。そんな願いをかなえるため、沖縄の伝統的な木造船「サバニ」を使ったサンセットクルーズができると聞いて、石垣島の北部にある久宇良集落へ向かった。目的地に向かう途中、久宇良集落近くで道路沿いに車を置ける小さな広場を見つけたので、少しの間駐車。林の中の小道を抜けて行くと、白砂のビーチが目の前に広がった。誰もいないこんなにキレイなビーチをひとり占めできるとは、なんて贅沢。こんな時、一人旅は誰にも気を遣わなくていいから快適だ。ビーチでのんびり過ごし、ふと遠くに目をやると、小さな船が見えた。あれがきっとサバニだ。期待が高まる。
“吉田サバニ造船”を訪ねて
ハイビスカスの赤と緑、青空とが絶妙なコントラストを描く久宇良集落。お目当ての吉田サバニ造船はすぐに見つかった。工房にはサバニに乗るのを楽しみにしている小学生の子どもたちもいて、とても明るく、元気に溢れた場所だ。工房長である吉田さんは、13年前に石垣島に移り住み、あるとき人づてに「島で唯一のサバニ職人が引退を考えている、伝統的な造船技術を受け継ぐ人がいなくなるかもしれない。」そんな話を聞いたそう。それまでサバニに乗ったこともなかったが、もともと木工が好きだった吉田さんはいても立ってもいられなくなり、工房を訪ね弟子入りを志願したという。それが、ちょうど5年前のこと。サバニを3艘、自分の手で完成させたところで、独立を決意したのだという。
自然が豊かな久宇良だから、サバニツアーのポイントもたくさん
今では、吉田さんはサバニを造るだけじゃなく、サバニの楽しさを多くの方々に知ってもらいたいと、自然が多く残る平久保半島を周遊するツアー等も行っている。風や潮は、その日の天候や時間帯によって異なるので、いつでも海に出られるとは限らないけど、海のコンディションを見ながら、安全に遊べる範囲でサバニに乗せてくれる。そのために、北風の日はここ、シュノーケルポイントはここ、干潮の時間帯だけ行ける洞窟はここといった具合に、ポイントをたくさん見つけてあるという。自然が豊かな久宇良を拠点にしているからこそ可能なことだろう。舟も海も知り尽くした達人と一緒に海遊びなんて、これは素敵な経験になりそう。
夢のサンセットクルーズへ 夕景の海に漕ぎ出そう
美しい夕日に久宇良の海が彩られる頃、いよいよ憧れのサンセットサバニクルーズへ。レクチャーを受けライフジャケットを着たら乗船。サバニツアーで使う舟にはアウトリガー(自転車でいう補助輪のようなもので、船を安定させる)がついているから、安定感があって安心だ。聞こえてくるのは波の音だけ。サバニは滑り出すように沖をめざす。
吉田さんが魅せられたサバニの魅力
穏やかな夕暮れの海で吉田さんがサバニの魅力を聞かせてくれた。「エンジンなんてなかった時代から、沖縄の海人(ウミンチュ、漁師さんのこと)は、帆をつけたサバニで遠くまで海原を旅して魚や貝を獲っていたんです。とても大変なことだったと思います。そんな遥か昔の時代の空気を感じられることがサバニの魅力のひとつ。」サバニはヨットみたいに帆走することも、櫂(カイ、オールのようなもの)で漕ぐこともできる。さすがに今は漁船として使う人はいないけれど、沖縄県内では大小いろんな規模で帆掛けサバニのレースがあって、愛好家が増えているのだそうだ。そのおかげで、途絶えかけていた造船技術も受け継がれているとか。
波の音が心地よい 穏やかな夕暮れ時の海
ちょっと沖に出ると、心地よい風が吹いてきた。サバニは帆柱も木でできていて、布と竹でできた帆をロープで操りコントロールをする。めったにない機会だから舟を漕がせてもらったが、漕ぐのはそんなに大変ではなかった。リーフの中は穏やかだし、教わった通りの動きを心掛ければ初心者でも大丈夫。「サバニは機械音がないので、近くに来ても魚が気づかないんです。飛び跳ねた魚がサバニに入ってくることもあります。サバニならではの体験ですね」と吉田さん。確かに、とても静かだ。耳を澄ませると、舟を漕ぐ音と普段はほとんど聞こえない小さな波の音、風がそよぐ音だけが染み入るように聞こえてくる。そして潮の香りと夕日に紅く照らされた海。深く息を吸い込むと、自分が自然と一体化するのがわかる。こんな感覚、初めてだ。都会では感じられない非日常の空間。贅沢な時間に、心が癒されていく。
サバニの上から見るサンセット 特別すぎる時間を過ごす
海辺で見るサンセットは、それだけで十分魅力的。それが、サバニの上から眺められるなんて、特別すぎる体験だ。昼間、透明度の高い海で空中に浮かぶような感覚を味わうのも面白いけど、夕日が溶け込む海の上で波に揺られ過ごす時間……言葉はいらないって、こういうことかも。クルーズ船もいいけれど、ヨットよりもずっと海面と近いサバニは、海との一体感がより一層感じられる。海、空、風に包まれて、いつもは忙しい毎日に気を張って生活していたけど、石垣の自然に心がとてもほぐされて、自分を見つめ直すきっかけにもなった気がする。
久宇良の海に沈み行く太陽 心が元気になった
サバニサンセットクルーズを終えた後の浜で、水平線に沈んでいく夕景を眺めた。とても名残惜しいけど、またこの舟と海に会いに来ようと心に誓った。
Information 基本情報
吉田サバニ造船
住所 | 沖縄県石垣市平久保234-282 |
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TEL | 090-6869-2395 |
備考 | サバニライド大人5,000円、小学生2,500円(保険料・税込) サンセットクルーズ大人6,000円、小学生3,000円(保険料・税込) 天候と海況によりツアーが中止になることもあります。3日前までに要予約。サバニツアーが催行できない際には別メニューもあるので、詳しくは下記HPへ |
URL | https://www.cicadae-sailboat.com/ |