阿嘉島への想いと伝えたい技

おしゃれで軽くて涼しい帽子「アダン葉帽子」は、かつて黒糖や泡盛に次いで人気のあった商品。県外だけでなく、遠くは欧州にも輸出されていたといいます。しかし、戦後は衰退し、忘れられた工芸品となってしまいました。そのアダン葉帽子を阿嘉島で手がけている比嘉聡子(ひが さとこ)さんを訪ね、製作のきっかけや帽子に込めた想いを聞いてきました。

慶良間諸島にある小さな楽園・阿嘉島

慶良間諸島の中でも純白の砂浜と透明度の高い海で知られる阿嘉島(あかじま)。 “世界が恋する海”と称されるほど、世界中のダイバーが憧れる場所です。特にグラデーションブルーが印象的な北浜(にしばま)は人気が高く、毎年多くの観光客が訪れます。

阿嘉島へのアクセスは泊ふ頭旅客ターミナルビル「とまりん」から。フェリーなら約90分、 高速船なら約50分で島に到着します。

阿嘉港の手前に架かる大きな橋が、阿嘉島と慶留間島(げるまじま)をつなぐ阿嘉大橋。アーチが連なる橋はしゅっとしたフォルムで、島のシンボル的な存在です。

阿嘉島にはケラマジカが生息していて、時々住宅街にひょっこりと現れます。本土のシカと比べて小柄で、つぶらな瞳がとってもキュート。個体数が少ないので、天然記念物に指定されています。お尻の部分に生えている白い毛がハート型になっているのもかわいい!

美しい帽子が生まれる場所を訪ねて

小さな島ながら、たくさんの魅力を持つ阿嘉島で暮らしているのが比嘉聡子さんです。比嘉さんは、「アトリエトコイ」を立ち上げ、島に自生しているアダンの葉を使って帽子や小物を製作しています。工房には、収穫して下処理をしたアダンの葉、丁寧に編み上げられた帽子やブレスレットなどが置かれています。

「アダン葉帽子は、軽くて通気性もよく、暑い沖縄にはぴったりの帽子です。仕上がりをイメージしながら編み上げるのですが、葉の状態や力の入れ方によって網目に表情が生まれ、一つとして同じものはありません。戦争で作り手がいなくなってしまい、衰退してしまいましたが、私はアダン葉帽子を『世界にも引けをとらない大切な財産』だと思っています。帽子なのですが、そこには沖縄の自然や歴史、文化が息づいていると感じています」

帽子の材料であるアダンは、沖縄の海辺でよく見かける植物。葉は5cmほどの幅で、1m以上の長さになります。細長くて固く、トゲがあるのが特徴です。

葉の収穫から下処理、編み上げるまでのすべての作業を一人で行っているという比嘉さん。編み始めるまでの下処理に約1ヵ月かかるといいます。「トゲを取り除いて煮るんですが、少し甘い香りがするんですよ。その後は天日に干して完全に水分が抜けたらやっと使えるようになります」。帽子の編み方はいろいろとあるといいますが、タコの頭のような形を作り、葉を足しながら編み広げていく「琉球式」と呼ばれる手法で作っています。「編んでいる時間は自然と一体となれる不思議な感覚。それはとても平穏で豊かな世界です。私にはこの時間が何よりも大切なんです」

願いは、技術を受け継ぎ残していくこと

比嘉さんがアダン葉帽子と出会ったのは2014年のこと。テレビでアダン葉帽子の復活にかける人たちのドキュメンタリー番組を観たことがきっかけだったといいます。「沖縄で生まれ育ちましたが、そのような産業があったと知らなかった。そして、こんなに素敵なものを途絶えさせてはいけないという使命感のようなものが湧いてきて、沖縄本島にある、工房『ori to ami』を主宰する糸数弓子先生の元に通って作り方を学びました。阿嘉島から沖縄本島に通うのは大変でしたが、技術を身に付けたいと思い頑張りました」

比嘉さんと阿嘉島との縁は、結婚がきっかけ。「島出身の主人の実家が空き家だと聞き、見に訪れました。赤瓦屋根の古民家が素敵で、何より阿嘉島の美しい自然に魅了され、この島に住んでみたいなぁって思ったのを覚えています。静かな環境も自分に合っていました。暮らしてみると島の人たちはみんな家族のように温かくて、子育てをするのにもいい環境でした」。4人の子どもたちとの生活は、楽しくて賑やかで充実した日々だったそうですが、一方で手に職を付けて働きたいという思いもあったと振り返る比嘉さん。そんなときに出会ったのが、帽子づくりだったといいます。

技術を身につけて、2018年に「アトリエトコイ」を立ち上げ、アダン葉帽子の受注販売を開始。毎年、島で開催される座間味村産業まつりで「座間味村議会議長賞」を受賞したことが自信にもつながり、阿嘉島や那覇で帽子づくりのワークショップを始めました。2023年からは那覇市首里に「帽子クマーの学校」を開校。自身が持っている技術をたくさんの人に伝えています。

心をほどいてくれるお気に入りの場所

阿嘉島の中でお気に入りの場所は?との問いに、自宅から歩いて行ける前浜ビーチと答えた比嘉さん。「観光客に人気のニシ浜もいいのですが、私にとっては前浜が一番!泳ぐことはありませんが、心をひと休みさせたいときに行くことが多いかなぁ。特に夕暮れはおすすめ。慶留間の山を眺めながら、ビールを飲むのが最高の過ごし方。ぜひ宿泊して、海風を感じながら夕涼みをしてはいかがでしょうか」。波が穏やかな前浜は、頬に感じる潮風も優しい印象。貝殻を拾いながら散歩したり、夕涼みをしていると、心の緊張がゆるゆるとほどけていくような気がしました。

そしてもう一つのお気に入りが、天城(あまぐすく)展望台から見る景色。「佐久原(さくばる)奇岩群は、いつ見ても感動します。私は子どもたちと一緒に歩いて岩の先まで行ったことがありますが、展望台からも十分に楽しめますよ。天気が良い時は、海のグラデーションが本当にきれい。あと、阿嘉大橋から海を眺めていると泳いでいるウミガメに遭遇できちゃうかも」

阿嘉島で暮らして20年。最近は、ワークショップなどで阿嘉島と那覇を行き来する日が多いといいます。「那覇には新しいお店やイベントなど刺激的で楽しいのですが、島に帰るとやっぱりホッとしますね。阿嘉島には心を潤す素晴らしい自然があり、その美しさを求めて島を訪れる観光客も増えています。少しでも島の観光に貢献するお手伝いができたらうれしいですね」。アダン葉で編んだ帽子やブレスレットが島の新しいお土産になれたらと話す比嘉さん。自身が手がけた商品が島の特産品になる日を夢見て、比嘉さんは今日も丁寧に、ひと編みずつ、阿嘉島を想いながら帽子を編んでいます。

Information 基本情報

アトリエトコイ

住所 沖縄県島尻郡座間味村阿嘉8
TEL
備考

Instagram @aterliertokoi_satokot

※アトリエ訪問の際は、インスタグラムをご確認ください。

URL https://adanhat.jp/
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