島で暮らす、島の人とつながる

沖縄では古くから、自生する植物を使ってカゴや笠などの日用品を作る文化があります。昔は誰もができたことでしたが、今では作れる人が少なく、貴重な存在。伊平屋島には東京から移住し、民具づくりを精力的に行っている女性がいます。伊平屋に自生するクバ(久葉)やマーニ(クロツグ)の葉を使い、伝統的な生活道具やオリジナルアイテムを制作。その温もりを感じる美しい道具には、誰もが心を惹かれます。そんな民具を作っている是枝麻紗美(これえだ まさみ)さんを訪ねました。

運天港から伊平屋島へ、出発!

伊平屋島は、沖縄県の最北端に位置する細長い形の島で、手つかずの豊かな自然美が特徴です。「伊平屋七景」と呼ばれる美しい風景を巡るのも、楽しみ方の一つ。島は、200mを超える緑豊かな山々と田畑が広がり、サンゴ礁が連なるエメラルドグリーンの海と真っ白なビーチに囲まれています。島民は1000人ほど。車なら40分ほどで一周できる大きさです。

島へ渡るフェリーへは、本島北部の今帰仁村にある運天港から乗船。午前と午後に1便ずつ、1日2往復の運航です。片道約80分。大きなフェリーなので、揺れが少ないのも特徴。事前に予約すれば車を乗せることもできるので、島であちこち巡る場合は車ごと移動するのもおすすめです。

伊平屋に着いたら、まずは島一周!こちらはパノラマビューの腰岳(こしだけ)展望台。田園風景と海を一望することができます。心地よい風が吹き、聞こえてくるのは鳥のさえずりと木々のざわめき。何時間でも滞在できそうな場所です。

島には自生のクバが豊富

島の北端部にある久葉山は、県内でも珍しい、見事なクバ美林に包まれた山。「伊平屋七景」の一つで、県指定天然記念物です。クバは和名でビロウといい、伊平屋島には豊富に自生しています。円形状の濃い緑のクバに覆われた久葉山は、遠目に見ても他の山とは違う質感。近づくとクバの形がよく見え、モコモコとした可愛らしい山です。

是枝さんは近くの山からからクバをもらい、民具に変えます。「クバを採りに行くときは、ハブが出る危険性もあるので島民の方と一緒に入り、使う分だけをその都度もらっています」とのこと。島にはたくさんのクバが自生していますが、とても大切に扱っています。

採ったクバは太陽と風にあて、しっかりと乾燥させます。繊維が強いので水を弾く性質があり、古くからカゴや水汲みなどに使われてきました。写真は「クバジー」という伝統的な民具で沖縄の水汲みをアレンジしたオリジナル商品「KUBABA」です。

ギャラリーと体験施設を併設している民具アトリエへ

民具づくり体験やギャラリーも併設している民具アトリエ「種水土花(しゅみどか)」は、伊平屋ポートターミナルから車で3分。ブロック塀に直接描かれた、華やかな紅型壁画が出迎えてくれます。こちらは、紅型研究所 染千花さんの作品。紅型と同じ手法で一色ずつ型を貼って制作したそう。ここにも手仕事のこだわりと魅力を感じます。

ギャラリーに足を踏み入れると、フワッと植物系の心地よい香りがしてやさしい気持ちに。店内にはクバでつくった民具を中心に、ゲットウ(月桃)やマーニなど沖縄に自生する植物を使用した作品を展示販売しています。伝統的な形の民具もありますが、アトリエオリジナルの生活雑貨、アクセサリーなど、現代の日常生活で利用しやすいアイテムが豊富なのも特徴です。

アトリエの敷地内には体験施設もあり、さまざまな民具を作ることができます。「手仕事の楽しさや喜びを伝えたい」と是枝さん。観光客だけでなく、島の人たちもよく訪れるといいます。体験メニューは、クバやゲットウ、ワラなどを使った8種類。ゲットウの縄を使う体験では、編んでいくうちにゲットウから出てくる香りに感動する人も!

是枝さんの働き方と暮らし方

東京でファッションスタイリストとして活動していた是枝さん。民具づくりの虜になった理由は「東京には何でもあり、いろんなものをたくさん見てきましたが、沖縄の植物の質感、マテリアルみたいなのがすごく独特で魅力的でした。東京にはないものですね」とのこと。自然の造形美を使って新しいデザインを生み出したり、暮らしの道具を作るというのが種水土花のコンセプト。「民具づくりを完全に教えてくれる人はいないので、いろんな人から少しずつ手法を学びました。昔のものを分解して研究したりもして。つくり方に正解はないので、独自の手法を取り入れている部分もあります」

東京から伊良部島に移住し、そこで民具と出会いました。本格的に民具づくりに取り組むため2016年に自然素材が豊富な伊平屋島に移り、2022年に体験施設と直営店であるギャラリーをOPEN。「仕事は忙しいけれど、自分のペースで暮らせています。観光客で島が混み合わないことも、私にとっては住みやすいポイント。暮らしを大事にすることができます。子育てもめちゃくちゃしやすいですよ」。地域の行事が多く、その度に近所の人たちと食事をするので、親戚に囲まれているような環境だといいます。
「どんなに忙しくても自分のペースを保てる。朝に太陽を浴びて夜に星を見る暮らしができていることに、満足しています」

アトリエは3人のスタッフと一緒に運営。県外から移住して来た島嫁さんや子育中のママなど、みんな頼りになる働きもの。休みの日は島のために別の仕事をしている人もいます。アトリエでも地域でも家でも、自分ができることを積極的にやっているそう。のんびりした雰囲気もありながら、テキパキと手際がいいスタッフさんたちです。

アトリエが休みの日やお客さんがいないときは、せっせと制作活動。現在、種水土花の作品を取り扱っているショップは県内外に20店以上あり、日々注文に追われているそう。家族のこと、島のこと、自分のことなどおしゃべりは止まらないけど、手が止まることもありません。「ありがたいことに注文が多くて、大変なんです」と言うが、みんな楽しそうに作っていました。

是枝さんの癒しのオフタイム

アトリエから車で20分ほどの潮下浜(スーガハマ)は、是枝さんが好きな場所。湾になっていてあまり波が立たない穏やかな海なので、娘さんが小さいときはよく一緒に行っていたそう。「仕事帰りにこの海で遊んで、そのまま帰る。家でシャワーを浴びて夕飯を食べるという生活です」と是枝さん。しかも、久葉山の前にあるので、「クバを見ながら海に入れるという、私にとっては最高のビュースポットです!」

家族や友人が伊平屋島に遊びに来たら連れて行くという、野甫大橋。橋の上から海を眺めたり、ビーチから橋を眺めたり。「ここは『うわー!キレイ―!』と感動してもらえる場所。自分が好きな島を紹介して喜んでもらえるのは、やっぱり嬉しいですね」

島のお友達とのおしゃべりも、是枝さんには欠かせない癒しの時間。前泊港ポートターミナル内にある「海やから千増(センゾウ)」の都倉かおりさんは、自宅でお泊り飲み会をするほどの仲です。お店にはコーヒーやスイーツ、お弁当も販売しているので、息抜きによく訪れるそう。「アガラサーや伊平屋島のうずまき餅はぜひ食べてほしいです!」と、是枝さんお気に入りのショップです。

伊平屋島の新しい魅力の一つとして

伊平屋島で活動を始めて9年目。すっかり島の「顔」となり、伊平屋島のイベントにも欠かせない存在となっている種水土花の民具。ギャラリーでは、限定アイテムやお土産も多数揃っています。イチオシは、民具と伊平屋の特産物がセットになった限定商品「民具詰め合わせ」。福袋のようなお得セットになっている、直接ギャラリーに来た人だけの特権です!

ギャラリーには、マーニを使ったオブジェやクバのアート作品も展示。「葉が折れていても、穴が開いていても、それを生かした形にすればいい。使えないものもないし、正解もないんです」と是枝さん。マーニのオブジェは島民にも人気で、島のお母さんたちがワイワイと賑やかに「これいいね。あれも見せてちょうだい」と買いに来てくれるそう。島のお母さんたちみたいに、陽気に暮らすのが憧れとのこと

自然体で民具や暮らしの話をしてくださった是枝さんは、すっかり島の住民。それでいて、アトリエアや作品、ライフスタイルには洗練された凛とした美しさを感じます。主張するのではなく、是枝さんのセンスと民具と暮らしが融合している、そんなイメージです。伊平屋島の「種水土花」で、ぜひその魅力に触れてみてください!

Information 基本情報

種水土花(しゅみどか)

住所 沖縄県島尻郡伊平屋村我喜屋2135-63
TEL 090-1772-4678
備考 営業時間:9:00~12:00、13:30~17:00
URL https://syumidoka.com/

海やから千増(うみやからせんぞう)

住所 沖縄県島尻郡伊平屋村我喜屋 前泊港ポートターミナル内
TEL 098-046-2030
備考 営業時間:11:30~15:00
URL https://www.instagram.com/umiyakara_senzo.iheya/
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