島のごちそうとマンマの味
渡嘉敷島的イタリアンの楽しみ方

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ちょっぴり船旅で慶良間諸島の渡嘉敷島に上陸

那覇の泊港から高速船で約30分、フェリーなら約1時間で到着する渡嘉敷島。海の美しさで世界の人々を魅了する慶良間諸島にある4有人島のひとつで、200m級の山々からなる緑濃い島だ。

島をみっちりと覆う植物たちのグリーンと好対照に、旅人たちの目を釘付けにするのが阿波連ビーチに広がる底抜けに明るい海の青!120島近く日本の島々を旅してきたけれども、南の島のビーチでグリーン系ではなく、こんな風に鮮烈な青みを持ち、スコンと海底まで透けて見えるブルーの海は珍しい。しかも、この美しいビーチは人々が暮らす集落のすぐ前にあるのだ。

ふりかえれば、ビーチを縁どるように生い茂る亜熱帯植物のなかを小鳥たちがいそがしく飛び交っている。どうやら熟れた木の実が目当てのよう。ここ渡嘉敷島は、海のブルーと山のグリーンがせめぎあうそんな夢のような島なのだ。

 

やってきました、ランチタイム!話題の「Café 島むん+」へ。

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ビーチから、民宿や民家が建ち並ぶ阿波連集落の小道をてくてくと歩くと、小学校の向かいに花や緑に囲まれたカフェが1軒。店の名は「Café 島むん+(プラス)」。今日のランチは話題のこちらの店でと決めていた。

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緑いっぱいの庭の奥にある小さなおうちがお店になっている。ブーゲンビリアのアーチをくぐると、居心地が良さそうなウッディーなテラス席。

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店の扉を開けて驚いた。目に飛び込んできたのは、スタイリッシュなレストラン空間だった。扉の向こうにはカウンターがのび、ワインボトルやグラス、それからびっしりと文字が記されたメニューボードが幾枚も。

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早速、おいしいと話題の“イカ墨チャーハン”を注文。「Café 島むん+」店長の金城雄治(きんじょうゆうじ)さんは、すっと厨房に入るとフライパンを手にとり、火をつけた。

 

絶品“イカ墨チャーハン”のルーツは、小学校の校外学習にあり!?

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“イカ墨チャーハン”のネーミングからてっきり中華鍋を振り豪快に炒めるのかと思いきや、金城さんの所作は極めて控えめ。どちらかというと丁寧に焼き付けるといった印象。そして料理が仕上がるタイミングで登場したのが、沖縄の陶器“やちむん”。「店を始める前に読谷の北窯で揃えたんです」と金城さん。そうしてこの器にこんもりと盛り付けられた“イカ墨チャーハン”は、知る人ぞ知る隠れた名店のおすすめ料理の風情。

材料は極めてシンプル。あくまで主役は渡嘉敷島近海で獲れたアオリイカ、そしてその墨。ぱらぱらっと仕上げられたお米は、イカ墨の芳醇な味わいと磯の香りをまとい、じつに味わい深い!パクパクと食べられる。思い出すだけで喉がなる。

「イカ墨チャーハンに使うイカは、沖縄郷土料理のイカ墨汁に使う体長が50㎝にもなることがある巨大なクブシミではなく、体長20~30センチ程度のアオリイカの身と墨です。この料理には、アオリイカの墨が一番合うんです」と、穏やかに語る金城さん。……イカの種類ごとの墨の味の違いなど考えたこともなかった。

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一体この“イカ墨チャーハン”は、どのようにして生まれた料理なのだろう? 聞けば生粋の阿波連っ子の金城さんが子どもの頃から親しんでいる家庭料理、つまり“おふくろの味”なのだそう。しかもこの料理は、阿波連集落で暮らす方々の思い出の味でもあるという。

今から30年くらい前のこと、阿波連小学校には島の漁師たちと児童、そしてその父兄が一緒にアオリイカ漁を行う校外学習の時間があった。獲れたアオリイカはすぐにぶつ切りにされ、校庭に用意された鉄板のうえで豪快にご飯と混ぜられ、皆の胃袋へ。こうして、この漁師メシの美味しさは集落の人々の間に広がり、各家庭に定着したのだそう。

 

24歳でふるさとの島にカフェを開店

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金城さんは高校卒業後、福岡の飲食専門学校で学び、卒業後は福岡のイタリア料理店で修業。一時は貯めたお金でイタリアへ渡ろうかとも考えたが、3年前の夏、24才で渡嘉敷島の自分が育った集落に店をオープン! 本格的なこの厨房やカウンターは、島の方々に助けていただきながら、ときにあるもので工夫しながら、父親の手も借りつつ、仕上げたのだそう。

「島の人はなんでもできるんです。器用なんです。そうでないと暮らせないですから」と、金城さんは笑う。

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それにしても20代の若さで、素材を活かしたこんなにセンスのいい料理を作ることができる金城さんは、この島でどんな料理を食べ、どのように育ってきたのだろう。

 

宝石箱みたいな島育ちの果実ジャム

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雄治さんのお母さまの金城容子(きんじょうようこ)さんは、島の港の船客待合所内に小さなお店を出している。棚には天然色のジャムが詰められたガラス瓶が美しく並べられ、まるで宝石箱のよう。濃い黄はタンカン、深い紫は桑の実、ライムグリーンはシークヮーサーのジャム。果実はどれも島育ち。

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ピンク色のグアバジャムの果実も、もちろん渡嘉敷育ち。「グアバには種類がいくつかあるんですが、私は島の在来種のグアバを使っています」と容子さん。華やかな香りや味わいがもっとも濃いのは、在来種のグアバなのだそう。加えてグアバには家族の思い出も重なるとか。嫁いだ先のお父さん、つまり雄治さんのおじいさんはグアバの香りが大好きで、畑でガブリと食べるのはもちろんのこと、香りを楽しむために部屋へ持ち込んでいたそう。島産グアバの果実は小ぶりなのだけれども、容子さんは島に昔からあるこの在来種にこだわり、手間ひまかけて種を取り除き、ジャムやコンフィチュールに仕上げている。

 

離島だから生まれたお母さんたちのケーキレシピ

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そう聞くと、容子さんのジャムを味わいたくなる。再び「Café島むん+」へ行き、今度はテラス席でくつろぐことに。店では、たんかんチーズケーキ、島の果実添えアイスクリーム(グアバorジャンボ桑の実)と、容子さんのジャムを使ったスイーツも楽しむことができる。そして、たんかんチーズケーキをひと口いただいて……あぁ、やっぱり美味しい! 福岡での修行時代に覚えたレシピですかと訊くと、「島にはケーキ屋がないんです。だから島のお母さんたちは、子どもの誕生日には自分でケーキを作るんです。このケーキは、母のレシピをアレンジしたものなんです」と雄治さん。そして「島のお母さんたちはみんな、ケーキは作れると思いますよ」とも。

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ドルチェと一緒にワンショットのエスプレッソに少量のフォームドミルクを加えたカフェ・マキアートをいただくと……なんて香り高い味わい! このコーヒーをこの島のおいしい空気とともにいただく喜びをかみしめる。コーヒーメニューはホットとアイスを合わせて15種類と種類も豊富。ちなみに、この味わい深いコーヒーで作るこの店のティラミスもまた抜群に美味しいので、ぜひお試しを。

島の暮らしに寄り添う夕暮れの海辺

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夕方、宿をとった阿波連集落からビーチへ出ると、子どもたちが水面に小石を投げて遊んでいた。やわらかな潮風にくつろぐ島の方々の姿もちらほら。寄せては返す波の音に、はしゃぐ子どもたちの声が絡まる。そんな、島の暮らしと共にある海辺の光景に身を委ねていると、“島を旅している”という一体感のようなものを感じ、うれしくなる。

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金城さんに教えてもらったおススメの場所、阿波連展望台へ向かう。波打ち際を歩き、岩のトンネルをくぐり、急勾配の階段を登った先に、その展望台はあった。階段をのぼりきった先に広がったのは、夕暮れ時の海面にうつろう色彩に包まれるような優しい夕景だった。

 

島人も旅人も集う大人な夜カフェ

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夜もみたび「Café島むん+」へ。どうしてもメニューに記されていた“島魚のアクアパッツア”を味わいたかったのだ。厨房から聞こえる美味しそうな料理音に耳を傾けつつ待つことしばし、登場した料理の色彩に心の中でガッツポーズ!

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お皿には季節の島魚だけではなく、エビやアサリもたっぷり。トップに添えられた摘みたてハーブにはレモンオイルが絡んでキラリ。口に運べば島魚はふっくら。海の幸のうま味が凝縮されたスープの美味しさといったらもう!

さらにパスタを追加でオーダーし、アクアパッツアパスタに! これはお客さまからのリクエストで生まれた隠れメニューで、茹で立て熱々パスタに旨みたっぷりのこのスープを絡めて最後の1滴まで楽しめひと皿なのだ。

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この夜「Café島むん+」には、旅の人はもちろん、島のお母さんたちも集い、さまざまな会話や笑い声が飛び交っていた。雄治さんは、自分のお店に島の方たちにも来てもらいたいと願っている。だから、この店の雰囲気に気取りはない。

「Café島むん+」で食事の時間を楽しみ味わいたいから、また渡嘉敷島を訪ねたい。「Café島むん+」は、島を再訪する理由にもなる名店だった。

そしてこの店の味の背景には、丁寧に積み重ねた島の暮らしがあった。日常の中にこそ美味しい食事はある。そんな「食べることの基本」を考えつつ、外へ出ると闇の向うから心地よい波の音が聞こえてきた。静かな集落の夜道を、ゆらゆらと歩き宿へ戻りつつ、お土産に購入した容子さんのジャムをヨーグルトに添えようかアイスに添えようか思案。ごちそうさまでした、金城ファミリー! そして渡嘉敷島。

Information 基本情報

Café島むん+(プラス)

住所 沖縄県島尻郡渡嘉敷村阿波連153
TEL 080-6497-1392
(お席が少ないので予約をおすすめします。また混雑時には、お食事の提供までにお時間がかかることもあります。
あらかじめご了承ください。)
備考 営業時間 12~21時(ただし変動あり。要確認)
休み 水曜
イカ墨チャーハン700円
島魚のアクアパッツァ2,000円/3,500円
たんかんのチーズケーキ400円
アイスクリーム 島の果実添え(グアバorジャンボ桑の実)400円
ティラミス500円
*価格は取材時(2018年11月)の値段で、変更となる可能性がございます。

島産品のお店 島むん

住所 渡嘉敷村字渡嘉敷346番地(渡嘉敷港船客待合所内)
TEL 098-987-3308
備考 営業時間 船の時間に併せて営業。(季節変動あり)
休み 無休(行事などがあるときは休み)
たんかんジャム740円
桑の実ジャム860円
グァバジャム860円
グァバのコンフィチュール1,620円
*商品は、季節やその年の収穫量により変わります。
*価格は取材時(2018年11月)の値段で、変更となる可能性がございます。
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