石垣島を中心に、11の有人島と多くの無人島からなる八重山諸島。
リゾート地として人気があり、観光施設も充実しているが、それぞれの島には豊かな自然や昔ながらの暮らしぶりが残っている。
島の人たちが大事にしている場所にお邪魔させていただく気持ちで、3島を巡る旅に出かけよう。
石垣島で伝統木造船の『サバニ』に乗る
少し変わった海遊びをしたいと向かったのは、石垣空港から車で約30分。石垣島北東部の平久保半島でサバニツアーを催行している吉田サバニ造船。サバニとは、沖縄の伝統的な小型漁船のこと。エンジンを使わず帆で風を受け、エーク(櫂)を使って漕ぎ進む。代表の吉田友厚さんは伝統技術を受け継ぎ、サバニ大工として数々のサバニを造船している。
サバニに乗り込み帆を掛け、いざ出発!サバニは造船所近くの2カ所の浜に停泊させているが、どの浜から海に出るかは風向き次第。その日その時の風を読んで決め、強風の日はもちろん出航中止に。「すべては風まかせです」と吉田さんは笑う。
しっかり風が吹いているときは帆が風を受けてぐんぐん進み、風が足りない時はエークを使って漕ぎ進む。
サバニ乗船を存分に満喫するコース、シュノーケリングもできるコース、サンセットを眺めるコースなどツアーは3種類あるが、「風や海の状態、お客様のタイプや要望などに応じて向かう場所や遊び方はアレンジしているんですよ」と、どんな場面でも柔軟に対応してくれる吉田さん。希望があればぜひ相談してみよう。
「吉田サバニ造船」を営む吉田友厚さん、朱美さん夫婦は、石垣島の自然と伝統文化を守りながら暮らしている。
サバニ乗船後、自宅兼造船所に戻りくつろいでいると、朱美さんが手作りのちんすこうを出してくれた。このちんすこうが本当に絶品!
隠し味にハーブを入れた門外不出の朱美さんオリジナルのレシピで、ほんのり香るスパイスが効いたクセになる美味しさだ。
「ここでしか食べられない味なの。また来てくださいね」とほほ笑む朱美さんに、心をグッと掴まれてしまった。
鳩間島では時間を忘れて、のんびり島さんぽ
西表島の北側に位置する、周囲3.9km、人口約50人の鳩間島。石垣港離島ターミナルから高速船で約50分、西表島経由の場合は約70分で到着する。
目立った観光施設はなく観光客も少ない、とても静かで穏やかな空気に包まれている島。
石垣に囲まれた民家が並ぶ集落、手つかずの天然ビーチ、のんびり草をはむヤギなど、島にあるもの全てに懐かしさと愛おしさを感じる。
ゆっくり歩いても2時間ほどで一周できるので、ゆるりふらりと気の向くままに散歩をしてみよう。
島一番の高台、標高33.8mの鳩間中森にある「鳩間島灯台」と「物見台」は、島を見渡す絶景スポット。真っ白な灯台の傍らには、復元された石積みの物見台。
石の階段をのぼり物見台の上に立つと、うっそうと茂る緑の木々と青く澄んだ海が目の前に広がり、その向こうには西表島も臨める。
物見台からの景色もさることながら、森を抜けた丘の上にある石積みの素朴な物見台そのものが、なかなかの景観だ。
島の大半は農地か原野。港近くの集落を出たら舗装されていない農道や野路を歩いて島を周る。人もいなければ人工的なものも少ない散歩道。草木の青い香りと風にそよぐ音に包まれ、「自然しかない贅沢」を実感した。
島を歩いているとあちこちで「メェェ」と呼ばれたり、遠くからじっと見つめられたり、出会いがしらに一目散に逃げていかれたりと、可愛いヤギたちとの遭遇も楽しみのひとつだ。
草木がそよぐ音にかすかな波音が加わったら、海岸に近づいている証し。鳩間島にはいくつもの天然ビーチがあり、どこも人が少なくプライベートビーチ感覚が味わえる。
シャワー設備などない手つかずのビーチゆえ、浜に下りる道も目立たないが、浜の前には小さな手書きの看板があるので見逃さないように。波の音に従って歩けば問題はない。
島の南側は遠浅でエメラルドグリーンの海で波も穏やか。北側は断崖絶壁や岩場に囲まれた海で波は少々高めな印象。小さな島でも特徴の異なる個性豊かなビーチが揃っている。
小浜島のプライベートビーチで過ごす、おこもりリゾート
小浜島は石垣港離島ターミナルから高速船で約30分。周囲16.6kmの島の南東側にあるプライベートビーチリゾート「リゾナーレ小浜島」を訪れた。
広大なビーチを有する約36万坪もの敷地に対し、客室はたったの60室!ヴィラタイプの客室は緑に囲まれた完全なプライベート空間だ。
生態系の保全を考え客室を制限し、エネルギー循環や廃棄物問題を意識した環境経営に取り組んでいる「リゾナーレ小浜島」で、1日の景色の移ろいを満喫することにした。
早朝や昼下がりにおすすめなのは「ガジュマルツリーテラス」。ガジュマルの木を見下ろす地上3.5mのテラスからは、水平線から昇る朝陽やパノラマビューの青い海など、時間帯によって表情が変わる景色が楽しめる。
何もせず何も考えずに過ごすのも、大事な時間。自然の中に身を投じて、ただ心地よい風に吹かれているだけの貴重なひととき。何だか地球と一体化できたような、そんな感覚が味わえた。
夕食はピクニックスタイルの「ティンガーラナイトディナー」を。沖縄で親しまれている食材を活かした創作料理と、レジャーシートや食器が詰まったバスケットを持ってビーチへ!ビーチに置かれているランタンはソーラー充電で蓄光し、暗くなると自動で点灯する。夕暮れ時になるとポッ、ポッ、ポッとランダムに点灯していく様子はとても幻想的だ。
ランタンの温かい光に囲まれ、レストラン「Ooli Ooli」の料理を前菜からパスタ、お肉料理までたっぷり味わえる、静かでロマンチックなディナー。プライバシーやセキュリティが守られたホテルの敷地内だから、夜も安心して楽しめるのだ。
食事の後は「ティンガーラハンモック」で星空観察。ティンガーラとは、沖縄の方言で天の川のこと。小浜島は21個ある1等星の全てと、88ある星座のうち84星座を見ることができるエリア。夏から秋までの期間、天の川も大きく見えるという。
人工の光が少なく見晴らしの良い一角に巨大なハンモックが設置されているが、このハンモックの寝心地が秀逸!気持ちよすぎて一晩中ここで横になっていられそう…。
夜空は10分くらい見上げていると目が暗闇に慣れ、よりはっきりとたくさんの星が見えてくる。短時間の観察でも、空の遠くに落ちていく流れ星も見られた。
自然がもたらす素晴らしい恩恵に、何度も心が洗われた今回の旅。日々の便利過ぎる生活に、ちょっぴり反省しながら、ほんの少しの意識と、まずはできることから始めようと前向きな気持ちになった。そして少しでも環境問題に配慮し、地球にやさしい生き方を心がけようと思うのだった。