先人の想いが今も息づく神聖な場所、久米島の洞窟「ヤジヤーガマ」へ

2025.12.26

美しい自然とおだやかな空気に包まれた久米島。

島のガイドとともに、久米島町指定文化財である神秘の鍾乳洞「ヤジヤーガマ」を訪れました。生命力あふれる洞窟では、はるか昔から島の人々が紡いできた歴史や祈りの背景に触れることができます。

自然の神秘にあふれる「久米島」

那覇空港から飛行機で約35分と、気軽にアクセスできる久米島。
美しいサンゴ礁が広がり、宇江城跡をはじめとする史跡や、久米島紬などの文化財も多く残されています。
琉球列島で最も美しい“球美くみの島”と称されており、「日本の渚百選」に選ばれたイーフビーチや、はての浜など、数々の絶景に出会うことができます。

海の美しさだけでなく、「奥武島の畳石」など久米島ならではの珍しい景観も魅力のひとつ。一面に敷き詰められた亀の甲羅のような奇石は、約600万年前の火山活動によって形作られたもので、久米島が元々は海の底だったといわれる所以を感じることができます。

久米島最長の鍾乳洞・ヤジヤーガマを歩く

今回は、ガイド歴25年を誇るベテランガイド・保久村昌欣(ほくむら しょうきん)さんの案内のもと、 全長約800メートルの洞窟「ヤジヤーガマ」を訪れました。

約120万年前から堆積した石灰岩が、長い年月をかけて鍾乳洞へと姿を変えたもので、8世紀ごろからは先住民の住まいとして使われていたとのこと。
久米島の自然と歴史を感じることができる貴重な場所として、今も大切に守られています。

洞窟に入る際は安全を考慮して、ガイド同伴のもと行くようにしましょう。洞内は真っ暗なので、あちこちから伸びる鍾乳石にぶつからないよう、ヘルメットと懐中電灯は必須。動きやすくて汚れても良い服装で、足元は安全のためにスニーカーを着用するなど、しっかりと準備をすることが大切です。

ガイド同伴の体験プログラムは、「久米島町観光協会@島の学校」と「久米島ホタルの会」で行われています。体験プログラムに申し込むと、必要な道具が準備されており、詳しい解説付きで洞窟を探索できるためおすすめです。

戦前、この場所では遺体を風にさらして安置する「風葬ふうそう」が行われており、洞窟の入口と出口付近には今もなおかめに納められた人骨が数多く遺されています。

人々の暮らしと深く結びついてきたヤジヤーガマは、島の人々にとって大切な聖域。
入口で静かに手を合わせ、洞窟内は決して触れないよう敬意をもって見学します。

慎重に洞窟内を進むと、地下に広がるのは神秘的な空間。
弱酸性の雨が流れ込むことでアルカリ性の石灰岩が溶け、洞窟は少しずつ姿を変えながら、今もなお形成され続けているのだそう。

鍾乳石が6ミリ伸びるのに、約100年。20センチ伸びるまでには、なんと約2000年もの歳月を要すると言われています。織りなされた結晶から感じられる、年月の重さと自然のエネルギーに圧倒されます。
洞窟の中に照明はなく、天井にはつららのように鍾乳石が垂れ下がっている場所も多いため、ぶつからないよう頭上に注意しながら暗い中を進みます。

ライトを照らして見せてくれたのは、先端が黒くなった鍾乳石。

「もともとは白い鍾乳石が、黒くなっているところがあるでしょう。あれは戦時中、火を使ったことで炭が付いた跡なんです。ここで人々が暮らしていたという証拠なんですよ」と保久村さん。
1945年の太平洋戦争時には、空襲から逃れるための「ガマ」として、多くの島民たちがこの洞窟に身を寄せたそうです。

長い歳月を経た今も、ここで生きた先人たちの証が色褪せることなく残されています。

洞内の環境を守りぬく島の想い

途中で保久村さんが「ライトを消してみて」とひと言。灯りがひとつもない真っ暗闇の世界を体感します。
「洞窟で暮らす生き物の生態系を守るため、灯りは設置していないんですよ。必要以上に人が洞窟を利用しないためにも、島全体で配慮しているんです」

少し怖いほどの暗さですが、日ごろ明るい環境に慣れている私たちにとっては、とても新鮮な体験。保久村さんの言葉から、洞窟を守り続ける島の人たちの強い想いを感じました。

やわらかな光が差し込む終着地点にたどり着きました。
この場所に風葬の名残が多く残されているのは、「光の差す場所に祀りたい」という琉球文化の思想によるものだそうです。

全長5メートルほどもある、ひも状に長く伸びたガジュマルの根。洞窟周辺に生い茂る木々は、静かな力強さを感じる迫力があり、自然の生命力が紡ぎ出す神秘的な光景が広がっていました。

「先人に手を合わせる気持ちでこの地を訪れ、島の歴史と文化を学び、感じてほしい」と、やわらかな眼差しで語ってくれた保久村さん。

先住民が暮らしていた8世紀、風葬が行われていた戦前、そして避難先として使われていた戦時中——。
それぞれの時代を通して、人々の暮らしと密接に関わってきたこの洞窟を、今ある姿のまま守り、次の世代へと受け継いでいく。

「その使命を全うしたい」という島の人々の想いに見守られながら、ヤジヤーガマはこれからも、大切なことを私たちに静かに語り続けています。

Information 基本情報

(一社)久米島町観光協会

住所 沖縄県島尻郡久米島町字比嘉160-57 イーフ情報プラザ
TEL 098-851-7973
備考
URL https://www.kanko-kumejima.com/plan/25/

NPO久米島ホタルの会

住所 沖縄県島尻郡久米島町字大田420
TEL 098-896-7100
備考
URL https://kumejimahotaru.jimdofree.com/体験プログラム/個人-ガイド/
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