沖縄の離島・宮古島からさらに飛行機で30分をかけて到着する多良間(たらま)島。島特有のゆったりとした時間が流れ、ここ多良間島にしかない文化や伝統も多いです。今回はそんな多良間島を知り尽くした島人と出会い、ここでしか味わえないスローな旅へ誘います。
観光コンシェルジュと巡る「島さんぽ」
観光名所を急いで巡るのではなく、旅先の文化や伝統、食べ物、その土地に住む人たちをより深く知ることがスロー旅の目的です。島のことを知りたいのなら、島の人に聞くのがいちばん。今回は多良間島観光コンシェルジュの波平雄翔(なみひらかずと)さんと一緒に島巡りを行います。波平さんは生まれも育ちも多良間島で、大学時代を沖縄本島で過ごしたあと32歳のときに故郷に戻り、島のポテンシャルを引き出す独自の観光ツアーを作成するなど数々の観光事業やコンサルティング事業を展開。島の発展へと貢献している若きリーダーです。
波平さんとは「すまむぬたらま」にて待ち合わせ。多良間島の観光協会が運営し島の特産品の販売やカフェメニューの提供をしている場所です。合流後は島の地図を見ながら、今回の旅路のルートや概要の説明を受けます。説明しながらも小粋なジョークを挟んでくる波平さんがすでに面白く出会って数分で虜に。これからの島散策が楽しみです。
島さんぽがスタート。今回は塩川の集落を散策します。小さな小道や色鮮やかな花々が彩る、これぞ離島という集落を抜けて目的地のフクギ並木道や御嶽(うたき)を目指します。
道中で立ち止まりながら、のんびりと集落さんぽを楽しみます。ヤギ同士を闘わせるピンダアース大会の会場と説明を受けたり、見た目が少し気味悪いノニの実を発見したり。「ピンダアースで負けたヤギはヤギ汁になります」「ノニを使ったノニジュースはまずい。テレビでよく罰ゲームで使われていますよ」と波平さんが笑いながら解説。衝撃と同時に「自然と共に生きる」ということを痛感させられました。見たことも聞いたこともない、多良間島独特の文化を学びながらゆっくりと歩みを進めていきます。
「ヒトマタウガン」は多良間島の八月踊りを行う神聖な場所です。琉球王国時代から続く伝統的な豊年祭で国の重要無形民俗文化財に指定されており、毎年旧暦の8月8日から3日間行われます。今年は新型コロナウイルスの影響で4年ぶりに開催されたそうで、その賑わいぶりを嬉しそうに語る波平さんの姿が印象的でした。
また広場には「おきなわの名木」に選ばれている大きなフクギがあります。推定樹齢は300年以上。長い年月をかけて島の伝統芸能を見守ってきた、まるで孫の守りでもしているかのようなどっしりとしたフクギが愛おしくなり、思わずハグをしちゃう私です。
そんなフクギがずらーっと立ち並ぶ並木道に到着しました。ここが今回の目的のひとつ、塩川御嶽への参道として整備されている場所で沖縄県の指定文化財でもあります。
参道は入り口から約650メートルも続いており、木漏れ日とそよ風がなんとも気持ちがいい。
フクギのアーチをくぐり抜けた先にあるのは「塩川御嶽」。その昔、ハリマタマチャラという塩川村の百姓が、空から飛んできた霊石2個が鎮まったのを見て草木を植えめぐらし御嶽を建てたと伝えられる島の聖地です。
多良間島では草木や岩石を大切にする自然崇拝の精神を大事にしていて、例え公共事業での工事であっても、木の1本を切り倒すのに村の話し合いが必要なほど、自然を大事にしています。そんな自然が多く残る塩川御嶽の拝所で私も祈りを捧げます。
御嶽のまわりを囲むように、フクギやアカギ、クワズイモなどの植物たちが鬱蒼と生い茂る中、どーんと大きな岩石が2つ並びます。これが霊石で、ガジュマルの木の根っこに浸食されるなど、神々しくたたずんでいます。一説には宮古島で起きた大津波がこの巨大な岩を運んできたともいわれているそうです。
多良間島のいいところはハブがいないところ。なので、こういった場所にも入っていくことができます。緑一色の世界は空気がとても澄んでいて、そよそよと風で揺れる葉っぱの音以外は何も聞こえません。まるでここ一帯が現世から取り残された「断絶した世界」かのような、そんな不思議な雰囲気を醸し出す特別な場所でした。
トゥブリで黒糖のカチ割りを体験
波平さんとの会話の中で「トゥブリ」という謎ワードが飛び交います。「海に続く小道」を指した多良間島の言葉で、島には47か所のトゥブリがあり、それぞれ島民イチオシのマイトゥブリがあるとのこと。そこでバーベキューをしたり、海水浴を楽しんだり、思い思いの時間を過ごすそうです。なんともうらやましい話。そう羨んでいると、波平さんからトゥブリで行う「黒糖のカチ割り体験」があるとのことなので、懇願して参加してきました。
波平家がご贔屓にしているトゥブリ「アウルトゥブリ」は、白い砂浜に青い海が広がる絵に描いたような絶景が広がっていました。こぢんまりとした浜でプライベート感が満載です。
黒糖のカチ割り体験の前に、おいしいコーヒーをいただきます。コーヒー豆をミルでひいていきます。
コーヒー豆や機材などのセットはこの旅の出発地点となった「すまむぬたらま」にある多良間島観光協会にてレンタルが可能です。これは嬉しい。
絶景を目の前にしてまさか引き立てのおいしいコーヒーが飲めるとは。コーヒー好きの私のニヤケ顔はもう留まることを知りません。
ここで本題の黒糖のカチ割り体験へ。コンクリートブロックのような、見たこともない黒糖のブロックが登場。これをハンマーとノミを使って削っていきます。見た目通り黒糖はカチカチに硬く、ハンマーで強く叩かないとなかなか割れません。
ようやく削れた黒糖は、島バナナをフライパンで温めて黒糖黒蜜をたっぷりとかけたデザートのトッピングに。
島バナナの酸味と黒糖黒蜜の濃厚な甘みがほどよく絡み合い、そこにカチ割りした黒糖の食感と深みのある風味が絶妙なアクセントに。コーヒーとの相性も抜群で、これまで経験したことのない究極の「おやつタイム」を過ごしました。こんな体験が日常でできるなんて、やっぱりうらやましい。
夜は多良間島の食文化を学べるバーベキュー
夜は多良間島の食材を使ったバーベキューを堪能します。せっかくの機会だからと、波平さんが特別に出してくれたのが「ジャンキィムヌ」。三枚肉や昆布、カマボコなど、沖縄本島では旧盆や正月に出される重箱料理の定番メニューを串に刺した多良間島のみで見られるご馳走です。上棟式の一種「スラブ打ち」の際に提供される特別な料理とのこと。
私も竹串に一品ずつ刺してジャンキィムヌ作りを体験。こうした習慣がついた由来のひとつに、大工が作業中でも食べやすいように竹串でごちそうを刺して差し上げたというのがあるそうです。
早速、一品一品をいただきます。波平さん特製の三枚肉は、ほろほろとやわらかく、味がしっかりと染みこんでいて絶品でした。そのほか、ジャンキィムヌ以外にも島ダコのカルパッチョ、海鮮アヒージョ、おからを食べて育った豚肉(マクル豚)の焼肉などなど。島の食材を使用した贅沢な逸品もたくさんいただきました。
お腹いっぱいでふぅーと見上げた空には、いつの間にか満天の星が広がっていました。自由気ままなフリーな旅もいいですが、島の人と巡る旅もおつなもの。島の想いや文化、歴史を知ることができるのは、その島と住む人たちをもっと好きになるきっかけになるから。多良間島でのスローな旅をぜひ体験してみてください。
参考情報