かつては集落中がまるで喫茶店?民家の軒先でいただくお茶とお菓子。伊是名島の「イヒャジューテー(おもてなし)」の心にふれる。

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琉球王国・第二尚(しょう)氏王統の初代国王尚円(しょうえん)王が生まれ育った地として、歴史好きから人気の伊是名島。最近、別の一面が、注目を集めているのをご存知でしょうか。その一面とは、島人のホスピタリティ溢れる風習、「イヒャジューテー」。沖縄本島のおばぁたちにその意味を尋ねても返ってくる返事は、「はぁ? なにかね〜」または「全然わからん」のどちらかで、沖縄本島ではほとんど知られていない言葉のようです。

音から推測するに「イヒャ」の「イヒャ」は、きっと伊平屋。では「ジューテー」は? 「兄弟(ちょーでー)」かな〜……。うーん。きっと地元の人に聞けばきっと分かるはず! 謎を解くべく、いざ伊是名島へ! ん?伊是名島の風習なのに、「イヒャ(伊平屋)ジューテー」とはいかに? これも島人(しまんちゅ)に教えてもらえるでしょう。

「イヒャジューテー」を語るときに必ず出てくるのが、民家の縁側に出された、お茶とお茶菓子の話。これは道行く全ての人に向けて「どうぞ召し上がれ」と置いているのだとか。家を留守にしていても、お茶は置いたままだそうで、空き巣は心配ないの?と心配になりますが、そんな面白い風習、興味が湧かないわけがありません。

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島に着くなり、その光景をこの目で確かめる為、一路古い町並みの残る伊是名集落へ。車を降りて散策を始めてから1分も経たないうちに「イヒャジューテー」に出会えました! 沖縄のおばぁの家でよく見かける大きな急須と、湯呑、菓子受けを確認。さて、見知らぬよそ者も敷地に入って、飲み食いして良いという噂は本当か……。緊張と共に、敷地に入ります。

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家の中を覗くと、おばぁとおじぃが休んでいました。「お茶をいただいてもいいですか」と声をかけると、ニッコリ。

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お茶は、沖縄の定番さんぴん茶。お茶菓子も、期待を裏切らない定番菓子、ちんすこうと黒糖飴。おまけにおばぁが縁側まで出てきてくれ、最高の三時茶(さんじじゃー)に。

ここぞとばかりに、「イヒャジューテー」について質問。

― これは道行く人のために毎日置いているんですか?

「そうよー。みんなやってるよー。休んで行ってちょうだいってね。こうやってあんたみたいに知らない人が来るから面白いさ。最近は観光客の人とか、新聞社の人とか来るね〜。珍しいね〜? 朝はね、ここにお茶を置くところから始まるの。ご飯よりも何よりも先。毎日よ。子供のころから染み付いている習慣さー」

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― おかあさんも、よその家におじゃましたりするんですか?

「もちろんよー。友達とか親戚の家に行って、食べてくるよー。みんなお菓子も欠かさないようにしているさー」

― 小さい頃よその家におじゃましたりしました?

「昔は、薪取りに行ったりして、子供でも忙しかったから、お茶やお菓子をもらいにとか行った思い出ないね〜」

― ちんすこう、お好きなんですか?

「うん、好きさ。今日はトーカチ(米寿)のお返しで上等ちんすこうがあったから、ちょっと豪華だね(笑)」

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― 「イヒャジューテー」の意味って何ですか?

「わからんさー。昔からそう言ってるから、そういう名前だと思ってるさー」

―ここは伊是名なのに、なぜイヒャ(伊平屋)と言うのですか?

「イヒャと言うのはね、伊平屋島も伊是名島もまとめて伊平屋と昔は言いよったわけよ。その名残りさ〜」

早速ひとつ、「イヒャ」についての謎が解けました。さすが、地元のおばぁです。

さあ、次なるお茶菓子を探して散歩を続けます。伊是名集落は、尚円王にまつわる見どころが多いエリア。「縁側のお茶」を探しがてら観光を楽しみます。

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伊是名集落内にある銘苅殿内(めかるどぅんち) 銘苅家は、尚円王の叔父の家。戦火を免れた保存状態の良い上級士族住宅というところから国指定重要文化財に指定されています。

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珊瑚の石垣 現在は、環境保護の側面から珊瑚を使った石垣の造作は禁止されています。

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ノロ殿内 村の神事を主宰する神女であるノロが、祭祀を行う宗教施設。

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神アサギ 県指定重要文化財に指定されている。集落単位で麦大祭、ウンザミ(海神まつり)、シヌグ(悪魔払い)などの祭祀を行う建物。

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伊是名酒造所 1949年創業の泡盛酒造所。島の天然水を使い醸造しています。伊是名でつくられた「ひとめぼれ」を使った「尚円の里」などが有名。

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てくてく、てくてく、てくてく……。集落内の名所を見ながら、一周しようかというのに二軒目を見つけられない! 少々困惑し始めた折り、庭いじりをする奥様に遭遇。他に「イヘャジューテー」を行っているお宅があるか尋ねてみることに。

― この辺のお宅では、見知らぬ人にもお茶を出していると聞いて探しているのですが、なかなか見つからないんです……。

「年寄りはみんなもうデイサービスに行ってるからね〜。それに新しい家は、縁側がないでしょ。それで、やめちゃった人もいるはずよ」

― 「イヒャジューテー」ってどういうものですか?

「島の人の、情け深い心のことよ。お茶を軒先に置いておくのも、その一つだねえ。昔は、農作業とか、台風の後の石垣の積み直しとか、皆で協力してやるでしょ。その後に、ごちそうを振る舞うわけ、たらふく食べてって。そういうのも『イヒャジューテー』よ。今は、おばぁたちの社交の口実みたいなもんだね〜。あと、朝のコーヒーみたいなもの。若い人は、朝、コーヒー淹れるでしょ。おばぁたちは、お茶淹れるわけ。自分の分と、お客さんの分と、ご先祖様の分の3つね」

― 奥様も小さいころは、よその家にお菓子を食べに行かれたりしました?

「遊ぶのに夢中で、あんまり行った記憶はないね〜。お茶菓子は天ぷらとかだったかな。あまり子供の好むものではなかったはず。でも、お彼岸の時なんかは、特別なのがあったりしたね。ひらやーちーとか」

― 「イヒャジューテー」のジューテーって何でしょうか?

「聞いたことあるんだけどね…。なんだったかね。忘れたさ。接待みたいなものよ。情の厚さというかね、まごころ込めておもてなししますよという感じ」

未だ謎の残る「ジューテー」の意味を知るため、次は島の資料館「ふれあい民俗館」へ

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ここで「イヒャジューテー」の心に深く触れることになりました。

館内をひと通り見終わった私たちのタイミングを見計らい、声を掛けてきてくれたのは、女性職員さん。「コーヒーでも飲んでって」と、ソファーに招いてくれました。

― これぞ「イヒャジューテー」ですね!

「そうね(笑)。コーヒーとお茶、どちらがお好き? ケーキもあるから召し上がって」

― 「イヒャジューテー」のジューテーってどういう意味ですか?

「おおらかっていう意味が近いかしら。自分は食べなくても、お客さんを優先しておもてなしするの。どんな人にでもね。生活感がおおらかって意味と言えばいいかしら。自己犠牲とか重たいようなものではなくて、あっけらかんとしたイメージ。細かくなくて、あるものは全部、ハイハイハイって食べさせる(笑)。」

― 「イヒャジューテー」の心が島民にしっかり受け継がれてるなと感じることってありますか?

「ありますよ。子どもたちがね、物を分けたりとかそういうことだけど。例えば自分ひとりしかいなくても、お菓子を次の人の分を残して、少しだけもらうとかね。そういう子に聞くと、だいたいお家にお年寄りがいらっしゃるわね」

資料館職員の女性には、島出身の尚円王の話まで根堀り葉掘り質問し、気づけばあっという間に時間が過ぎていました。おやつをご馳走してくれ、個人的な興味の質問にも嫌な顔ひとつせず、答えてくれる。これこそが、伊是名島のおもてなし「イヒャジューテー」なのだなと、体験することで深く理解しました。

思えば、庭いじりをしていた奥様も、見知らぬよそ者に、ニコニコと楽しそうに多くを教えてくれました。そういえば、民宿の夕食も宿代より高いのではと思う程のご馳走でした。

島の旅を通じて「縁側のお茶」だけが「イヒャジューテー」だと思っていた間違いに気付かされました。島人の一人ひとりの心が「イヒャジューテー」だったのですね。

伊是名島を訪れる際には是非島の方々と交流し、「イヒャジューテー」を体感してみてください。伊是名の人の温かいおもてなしで忘れられない旅行になるはず!

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