沖縄本島から南西に約400キロに位置する八重山諸島には、石垣島をはじめとする11の有人島と多くの無人島がある。
ひと口に沖縄と言っても、島によって育まれた伝統や文化は、その土地ならでは。実際に現地を訪れて体感してみないとわからないことも沢山ある。
そんな島ならではの文化に触れる旅に、出かけてみた。
ミンサー織を通して先人へ想いを馳せる
南ぬ島石垣空港に着いてまず向かったのは、「あざみ屋 みんさー工芸館」。
ここは八重山地方の伝統工芸「八重山ミンサー」(ミンサー織)の織元で、ミンサー織の最終工程である「織り」を実際に体験することができる。
ちなみにミンサー織の名前は「綿(ミン)でできた幅の狭い(サー)織物」に由来しているのだそう。
手織り体験にはいくつかコースがあり、今回はコースターを作ることに。
まずはベテランの織子さんに織り方の見本を見せてもらったら、体験用の織り機へ移動する。手ほどきを受けながら、美しく張られた経糸(たていと)の間を杼(ひ=シャトル)を滑らせて緯糸(よこいと)を通していく。
「緯糸のテンションは同じように。そうすると耳がきれいにそろいますよ」
アドバイスを意識しながら、糸を通して“がしゃん”、足を踏み替えて“がしゃん、がしゃん”……これを繰り返す。
最初はおぼつかなかった手つきや足ぶみにもだんだんと慣れ、少しずつリズミカルになってくるのが快感だ。
コースターづくりにかかる時間は30分ほど。
「これくらいで大丈夫ですよ。上手に織れましたね」と声をかけてもらうまで、時が経つのを忘れるほどすっかり夢中になっていた。
完成したものは織り機から外してカットされ、後日郵送で送ってもらえる。
石垣島の青い海のようなブルーに、八重山ミンサーの特徴である五つと四つの“四角”で表す絣模様が浮かびあがる。
八重山地方ではその昔、愛する男性に女性がミンサーを送る風習があり、「五(いつ)の四(世)までも末長く幸せに」との想いが込められている。
なんだかとてもロマンティックだ。
美しい自然に抱かれて塩づくり体験
次に訪れたのは、「石垣の塩」工房。石垣の塩は、石垣島の海水100%からつくられる全国的にも人気の高い塩。工房のある名蔵湾では1717年頃に塩づくりが始まったとされ、「八重山地域の塩づくり発祥の地」(八重山博物館「八重山歴史年表」より)と言われている。
職人さんに教わる塩づくりは、まず海水を汲みにいくところからスタート。
緑豊かな場所にある工房のいったいどこに海が?と思いながら職人さんの後に着いていく。ジャングルのような鬱蒼とした木々のアーチをくぐり抜けると……。
透明度が高く穏やかな青色をたたえた名蔵湾の海と、白い砂浜が目の前に。
その幻想的な美しさにはっと息を飲む。実はこのエリアは西表石垣国立公園にも指定されており、ほとんど手つかずの自然が残されているのだ。
「海水を少し舐めてみてください」と言われたので、指で少しすくって口に含んでみると、まろやかでほんのり甘みを感じる。想像していた海水の味とは全く違って驚いた。
沖縄一高い島の山「於茂登岳(おもとだけ)」の緑の恵みが、川から海へ運ばれ豊かな海を育んでいるという話を聞くと、「石垣島の塩は本当に石垣の自然の恵みなんだ」と、その味わいに納得した。
海から戻ると早速体験がスタート。職人さんに指示してもらいながら海から汲んできた水をフィルターでろ過し、海水を石鍋に移す。
木蓋をしたら、七輪へ。うちわであおぎながら炭の火起こしをするのも、キャンプみたいでワクワクする。じっくり水分を蒸発させたら、塩の完成!
石鍋についた塩をスプーンでこそげおとす。出来立てほかほかの塩は、なんだか香ばしい。
「作る人によっても、塩の味が違ってくるんです。人柄がでるのかもしれないですね。不思議ですよ」と教えてくれた。
出来上がった塩は、小さなビニール袋にお米とサン(ススキなど植物の葉を結んで作る沖縄の魔よけ)を一緒に入れてお守りに。
沖縄では塩をお守りとして身につける風習があるという。
この後の道中は、きっとこのお守りが守ってくれるにちがいない。
集落を回りながら島の手仕事に触れる
もっと離島の魅力に触れようと、石垣島から高速船に乗り、竹富島へ渡る。
赤瓦屋根の家屋に白砂の小道といった“沖縄の原風景”が残る島は、集落を散策するだけでもどこか懐かしい気分にさせてくれる。
島の手仕事に触れてみたくて、集落から少し離れたところにある窯元の「アトリエ五香屋」へ向かった。
五香屋は陶芸家の水野景敬さんが主催するやちむん工房。併設されたギャラリーには、平皿やマカイ(碗)、花器などが並ぶ。
趣のある家屋は古民家かな?と思っていたら、実は水野さんが周りの協力を得て自分たちで建てたものだという。
木のぬくもりが心地よくて、つい長居しそうになってしまう。
線彫りという技法で魚の紋様を描く「魚文」や、ヤギやミミズクなど島の生き物を西洋風に描いた「パテルナ文」、琉球古典焼きをモチーフに竹富島の風習を描いた「みんなのうつわ」など、五香屋の焼きものは伝統的でありながらもおおらかでとてもユニークだ。
「器って棚にしまわれることが多いけど、しまわなくてもいい器を作りたい。真面目に、笑える器を作りたいんですよ」と水野さん。
確かに、五香屋の器は見ているだけでも楽しい。島の空気感も一緒に閉じ込められているようで、手に取るとなんだか心があたたかくなった。
島人のように島で過ごす安らぎの時間
竹富島の暮らしを体感したくて、宿泊は「星のや竹富島」へ。
宿泊するのは、伝統的な家屋を踏襲した木造平屋造りの建物。
琉球赤瓦の屋根の上には、漆喰でできたシーサーが見守っている。
窓をあけると心地よい風が、家の中を吹き抜けていく。
島で縁起が良いとされるこの「南風(ぱいかじ)」を迎え入れるために、縁側は南向きに作られているのだそう。
ソファに腰掛けて縁側から庭を眺める。ただそれだけの時間が、とても贅沢に感じられる。
施設内の見晴台からの眺めは、まるでここがひとつの集落のよう。
白砂の小道に、「グック」と呼ばれる珊瑚の石を手積みで組んだ石垣、生い茂る木々に花々……。
時間を忘れ、ゆったりと過ごしていると、この場所には島の先人の知恵がそこかしこに息づいていることがよく分かる。
“集落”を散歩して、ラウンジでひと休み。
静かでゆったりとした空間には八重山民謡の三線の音色が響き、まるでこの島に歓迎されているような気分になった。
ディナーは宿のダイニングで。
「琉球ヌーヴェル」は、沖縄食材の魅力に出会える星のや竹富島ならではのフレンチ。
牛フィレ肉のパン粉焼きには豆腐ようのソースがアクセントに添えられていたり、ジーマーミ(落花生)のヌガーグラッセは泡盛のエスプーマで仕上げられていたりと、シェフの確かな技術とみずみずしい感性から生まれる一皿は、前菜からデザートまでどれも心が躍るものばかりだ。
季節の島の美味を味わいながら、「この旅にきてよかったな」としみじみ感じ入る。
文化に、自然、その土地ならではの風習と、丁寧に体験するからこそよりその魅力の奥深さに気づくことができる。今度はどんな八重山の魅力に会いに行こうか。