北大東島でスロートラベル
気の向くまま、心赴くままに旅をする。そんなスロウな旅(スロートラベル)へあなたを誘います。今回は沖縄の離島・北大東島へ。島の風土や体験、感じた想いなどを綴ります。
スロートラベルという言葉をご存知でしょうか。スロートラベルとは、旅程をぎゅっと詰め込まず、気の向くままに心の向く場所へ行き、その土地の風土をたのしむ旅行のスタイルのこと。地域の人々やその文化・風土との「繋がり」を大切にしながら、自ら体験をして地域社会、教育、環境に旅の重きを置いているのが特徴です。
北大東島ってどんな島?
大東諸島に属する島で、沖縄県北大東村の村域。沖縄本島から東へ約360kmに位置する島です。珊瑚環礁が隆起してできた島で、沖縄でははるか東にあるという意味をなす「うふあがり島」と呼ばれています。
北大東島までのアクセス情報
北大東島までは空路と海路の2通りがあります。空路は那覇空港から琉球エアコミューター(RAC)にて約70分のフライトとなります。1日1便が運航しています。海路ではフェリー「だいとう」で約15時間。毎月、週約1便、那覇市・泊港(または那覇新港埠頭)を出港します。便によって、南大東へ先に寄港するもの、北大東島へ先に寄港するものがあるので、事前に確認するとよいでしょう。
スロウな北大東島の旅へ
プロペラ機特有の振動を感じながら約1時間。北大東島の空港に降り立ちました。ちなみに船だと約15時間。時間が許せば船で来てみたいところ。
大東諸島は、島の成り立ちも少々変わっています。約4,800万年前には南半球の赤道付近にあった島が、沈んだり浮かんだりしながらじわじわと現在の位置まで移動し、今でも5センチずつ沖縄方面に向かって動いています。
まずは電動自転車で「上陸港跡」を目指します。その名の通り、かつて北大東島に初めて人が上陸した場所です。
大東諸島は20世紀になって初めて人が暮らし始めた、人類史の若い島でもあります。遠く海を渡り、東京・八丈島からやってきた人々が上陸し、開拓してからわずか約120年。島の至る所でそのドラマを感じられます。
今は公園として整備されている「上陸港跡」。八丈島から大東諸島に渡ってきた人々は先に南大東島を開拓したのち、北大東島に来たそう。ゴツゴツ、トゲトゲとした岸壁を見て、開拓者はここを登って上陸したのかと驚きます。
続いて燐鉱石貯蔵庫跡に向かいます。1928年のピーク時に出稼ぎ労働者を含めて現在の5倍近い人が暮らしていたといいます。
大海原を臨む海辺にあるその場所は、今や風化した建物がそびえる巨大な映画のセットのよう。トロッコのレールをみつけたり、不思議な形の遺構のかつての用途を想像してみたり。写真を撮らずとも楽しいスポットです。
訪れた日は秋の連休でしたが観光客を含めて人がいません。だからこその開放感。心の自由を感じながら、ゆったり気分で自転車を漕ぎ、島を進んでいきます。
開拓当時の様子を知りたいと、「うふあがり人と自然のミュージアム」へ。この資料館では先人たちの偉大な功績を後世に伝えるため、開拓当初からの生活用品・生活様式の写真、資料などを展示しています。島を知ることで、より旅が豊かになるのは承知のこと。深い楽しみを味わいたい人には、資料館に立ち寄ることをおすすめします。閲覧は予約が必要です。
夕食にはかつて燐鉱石で栄えた時代に、働き手でにぎわった地区にある「居酒屋トロッコ」を訪れます。建物の中には島の歴史が知れる展示もありました。
マグロにソデイカ、ヒラメのお刺身、北大東産キハダマグロの目玉の煮付け、尾ひれのスパイシー揚げ、アワビのアヒージョと並びます。北大東島産のじゃがいも「ニシユタカ」を使った焼酎「ぽてちゅう」をいただきながら味わう島の味は最高の一言。
北大東島は夜空も美しいです。この夜は月が明るくて星は影を潜めていましたが、美しい月を見ながら木々が風に揺れる音以外、騒音もない静かな夜を過ごしました。開拓した人々はこの夜空を見て何を感じていたのだろうかと思いを馳せます。
今回宿泊したのは「ハマユウ荘」。モダンな建物はどこも居心地が良く、ゆっくりと過ごせます。Wi-Fiもスピーディーに通っているので、鳥の声をBGMにワーケーション、なんて贅沢に過ごすのもありかもしれません。
北大東島では秋にはじゃがいも、かぼちゃ、ブロッコリー、キャベツなどなんでも育てられるそう。ハマユウ荘の食堂でいただける島のじゃがいもを練りこんだ「じゃが麺」。沖縄そばよりも少し固めのもちもち食感で癖になります。
雄大な大自然と壮大な歴史を感じられた北大東島の旅は深く心にしみました。スロートラベルとはいえ1泊2日の旅程は短いです。次は3泊、いや1週間はじっくり滞在しよう。そう誓って帰路につく今回の旅でした。