絶景を共に味わうもよし、お土産にしてもよし。
海と山がもたらす石垣ならではの味。

沖縄本島から約400km、八重山諸島の玄関口である石垣島は、さらに離島へと向かう旅人たちにとっての中継地点となっている。市街地にはカフェやショップが集まり、昼夜通して街は明るい。静かに過ごしたくて離島を目指すのに、石垣島はすこし都会すぎるかもしれない――そう思っていた。けれど、「北部にはまだ手つかずの場所がたくさんある」と聞いて、石垣島の初めてのエリアへ向かってみた。

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レンタカーを借りたら、島の東側を抜けて国道390号を北上しながら伊原間(いばるま)エリアを目指す。10分もすると商店や食堂は少しずつ数を減らし、おだやかな平野がのびのびと広がって気持ちがいい。
人々の賑わいからそっと逃げるように、車を走らせた。

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最初の目的地は「玉取崎展望台」。車を停めると、展望台に続く入り口に敷物を広げて小さな土産物を売るおじさまがいた。のどかに交わされるお客さんとのやり取り。道の左右にハイビスカスが咲き乱れ、早く展望台に行きたい気持ちとは裏腹に一歩ごとに足が止まってしまう。

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2~3分上ればすぐそこに展望台! ぐるり180度以上の眺望が見渡せる石垣島屈指の景勝地。大きく深呼吸をして、風を体いっぱいに吸い込む。何もせずに5分。何もしなくていい5分。ふと足元を見ると、散策路の脇にある赤い実が目に入った。葉からは爽やかな香りがほんのりとしてくる。これは・・・そうだ、月桃だ。亜熱帯地方で育つ、沖縄らしい深い緑色をした植物で、沖縄の伝統のお菓子「ムーチー」に使われたり、化粧品にエキスが入っていたりする。でも、赤い実なんて初めて見た・・・。

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海だけ見ていると見過ごしてしまいそうな小さな植物たち。意識的に目を向ければあちらこちらに新しい発見がある。

 

島の食材を詰め込んだレストラン

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すぐ近所に展望台と同じような絶景を楽しめるレストランがあると聞き「シーフォレスト」へ向かった。
玉取崎展望台から目と鼻の先。敷地内に宿泊施設も兼ね備えた小綺麗な建物の前に立つと、エントランスから店内を通りぬけた先に大きなガラスがあり、視線がバルコニーまで一気に導かれる。景色を堪能するために作られたような建物。

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高い天井に白を基調とした店内。小さなお土産コーナーで「手作りゴーヤの佃煮」を見つけた。「石垣島の太陽をたっぷり浴びて育ったゴーヤをおいしい佃煮にしました」と書かれている。材料もシンプルで、手書きのイラストと文字に、家庭で作られる温かな惣菜が思い浮かんだ。

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そうだ、石垣最初のお土産はこれにしよう。ていねいな手仕事を好む友人にひとつ、自分用にもひとつ。

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店のテラスから外を眺めると、エメラルドグリーンに輝く海。窓ガラスが絵画の枠のように、その先の景色を際立たせてくれる。

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シーフォレストが使うのは地元の食材。メニューから島の食を知ることができるので、じっくりと読み込んで吟味する。島豆腐のステーキをメインにしたミニ懐石の「島豆腐御膳」、軟らかく煮こまれた「石垣牛ハッシュドビーフ」、1日5食限定の「手づくりゆし豆腐と石垣牛丼」など、単品からセットまでお腹の空き具合に合わせて選べる。

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一番ボリュームのある「島豆腐御膳」を注文。小麦粉をまとわせて揚げた島豆腐は、もろみ味噌とニンニクを合わせてこっくりと仕上げたソースと、温泉卵を一緒に。揚げたことでジュワッと甘みが増して、食べごたえのある一皿。

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小鉢にゴーヤの佃煮が付いてきて嬉しくなる。小さく切った島豆腐に佃煮をちょこんと載せていただくと、ほんのりと残る苦味と佃煮の甘さが、素朴な豆腐と重なっていい箸休めになった。

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バターライスと共にいただく石垣牛ハッシュドビーフは、まろやかな味わいでシーフォレスト一番の人気。

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さっきまで海を堪能していたのに、店を出るとこの景色。青い海と一面の緑というコントラストに一瞬、息をのんでしまった。さて、そろそろ街へ戻ろう。ここに来る途中に、絶対に立ち寄りたいところを見つけていた。

 

おじぃとおばぁから引き継がれる石垣島ならではの食文化

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ここは地元の農産物を使った加工品を作る「海のもの山のもの」。手前にショップがあり、裏手は加工場になっている。ふらりと立ち寄ってお土産を買うことができる。

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地元で農業を営む、代表の曽我潮丸さんが仕事の手をとめて店の由来を教えてくれた。

「太もずくやアーサ(アオサ)などの海の恵みと、ウコンや島唐辛子、ヒバーチ(島こしょう)などの山の宝を使っているから、『海のもの山のもの』という名前です。おじぃやおばぁと話していると、昔はアーサをこうして食べていた、唐辛子をつぶしてワサビの代わりにしていた、なんて教えてくれるんです」と曽我さん。

「2019年の今年は、入植70周年です。沖縄本島北部から移ってきた方々が多く、何もなかったこの土地を開拓しました」なんて話も初耳だった。

何もなかったのは、食べ物も一緒。この葉を乾燥させればお茶になる、島唐辛子で肉の臭みを消すことができる、時には薬代わりに使うこともある。土地を拓いてきた先輩たちの言葉を拾い集めてきた。「この土地だからこそ生まれた食を残したかった。そんな気持ちで作ったのがうちの商品です。だって、僕たちはおじぃやおばぁの時代から続く食文化と共に歩んでいるから」

以来、唐辛子とヒバーチをベースにした商品を開発。ヒントはすべて、海と山の食文化だ。ここにあるものを使って、おいしく食べようと工夫した時代の物語が詰まっている。

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真ん中にあるのは私が沖縄で一番好きな調味料「島ハリッサ」。沖縄に住む友人からもらったのが最初の出合いだった。

「島ハリッサ」はここ、石垣島で生まれた。オリーブオイルに島唐辛子やニンニクを混ぜ、長命草やミントを加えた奥深い調味料はパスタや餃子のたれ、焼いた肉や魚にもいい。最近のお気に入りは、ガリっと焼いた厚揚げにほんの少しだけ島ハリッサをのせる食べ方。ちょこんとひと匙で、華やかな香りが抜群のご馳走へと変えてくれる。

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加工場の入り口に赤い実がぎっしり詰まった箱があった。玉取崎展望台で発見した月桃の実だ・・・。使い道を曽我さんに尋ねると「月桃は年に1回、梅雨の時期に開花し、9月~10月にかけてガクができて赤く熟します。島のあちこちに自生しているので採りに行き、乾燥させています。種とガクを別々にしたら、ガクはハーブティーに、種子は焙煎してミキサーでつぶして七味の材料になります」

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9月から10月、たった2ヶ月の間しかこのかわいらしい赤い実には出会えないらしい。偶然“この時期だけ”に出合えるなんてラッキー。

石垣島の北部を訪ねた半日は、慌てずにゆったりと時間を過ごした。
70年前、未墾の地だったこの場所に海を渡ってやってきた人々が生活の土台をひとつずつ作っていった歴史。海にも山にも石垣ならではのごちそうがあり、開拓者たちの営みを語り継ぐ人たちがいる。島の人と話すとそんな話がボツリボツリとでてくる。もっと聞きたい、もっと知りたい――もうすぐ旅が終わってしまうことに気づいて、名残惜しい気持ちになる。

 

離島の玄関口に「いしがき島 星ノ海プラネタリウム」が誕生

八重山諸島の玄関口である離島ターミナル内に「いしがき島 星ノ海プラネタリウム」ができたと聞いて最後に訪ねてみた。2019年7月にOPENした直径9mの日本最南端傾斜型投映式プラネタリウム。沖縄出身のミュージックアーティスト「HY」の音楽に合わせてオリジナルで制作した映像や、アニメとのコラボ作品なども上映されていて、一人でもグループでも、家族でも楽しめる。

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シートに身体をうずめて静かに呼吸をしていると、美しい音楽と共に八重山諸島の空が映し出される。まさに、星の海。星空保護区に認定された八重山の星空を見ることができ、こんなにも星があったのかと驚く。映像には八重山の星空だけでなく、真っ青な海も、端正な島々の姿も、島の見どころがギュッと詰め込まれていた。

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「満点の『美ら星(ちゅらぼし)』があなたを待っています」。
映像は暗闇の中でそう語りかけてくる。旅の始まりに観ればこれからの滞在に期待が膨らみ、旅の終わりに見れば、次に来るときの楽しみが芽生えてくる。

館内ではその日の旧暦や月齢、日出・日入、月出・月入、満潮・干潮など星空観賞に必要な情報も教えてくれるので、星に詳しくないわたしにも十分に楽しめる素敵な案内だった。

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併設されたショップにはパウンドケーキや黒糖のシロップ、スパイスミックスなどオリジナル商品が並び、ここでしか買えないものに出合うことができた。バナナケーキを見つけたら、迷わず選んでほしい。むっちり&ふっかりでバツグンにおいしかったから。

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石垣島の滞在は、非日常を楽しむこと以上に、日常を思い出す喜びに満ちていた。おじぃおばぁが紡いできた食文化に触れて、普段食べる様々なものの営みに思いを馳せたり、石垣島に流れる時間がおだやかだったからこそ、日常を健やかにリセットしてくれたのかもしれない。きっと石垣島は、いつも変わらず訪ねる人々にこんな時間を運んでいるのだと思う。次はまた、石垣の自然が一番美しく見える季節を探してスケジュールを空けておこう。

Information 基本情報

シーフォレスト

住所 沖縄県石垣市伊原間2-736 
TEL 0980-86-7301
備考
URL http://www.seaforest-ishigaki.com/

海のもの山のもの

住所 沖縄県石垣市桃里165-413
TEL 0980-86-7757
備考
URL https://www.umiyama.org/

いしがき島 星ノ海プラネタリウム

住所 沖縄県石垣市美崎町1番地 ユーグレナ石垣港離島ターミナル内
TEL 0980-87-9945
備考 休館日:水曜、年末年始
URL https://ishigakijima-planetarium.jp/
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